夫婦/オイルパステル画
こんな夢を見た。
明るい森の中に横笛を吹いて歩いている男の人がる。
犬を連れている。何をしているのだろうと見ていると、
「笛を吹いて歩くのが仕事なんです」とその男の人が言った。
ずいぶん気楽な仕事だな~。いいな~〜。
そんな仕事なら僕もやりたい。
そう羨ましく思った。
目が覚めてから僕はその男の人の絵を描いた。
何日かして絵が仕上がるとまたその男の人の夢を見た。
その人は「向こうに妻がいるので描いてほしい」と言う。
すると場面が変わって日の当たる春の様な小川で女の人が水浴びをしている。
後ろ姿だが全裸だ。
わっ!!
裸だったので、僕の方が恥ずかしくなって目が覚めた。
そしてその日の朝から女の人を描いた。
最初は笛を吹く男の人の絵で終わるはずだったがツインの絵になった。作品に夫婦と名付けた。
不思議な事はさらに続く。
個展を開いてその絵を展示した。
初日の日だった。ぶらりとギャラリーにご老人が入って来た。
品のいい知的な印象の人だ。
その人はひとしきり飾ってある絵を見て回ると夫婦の絵の前で止まった。
ずいぶん長い間見ていたが気に入ったのだろう、
僕の方に振り返って「この絵を下さい」とニコニコしながら言った。
2点で60万円。
ぶらりと入って来た人が絵を買うのは珍しい事ではなかったが、
お菓子を買う様な感じで言ったのでちょっと驚いた。
あ、ありがとうございます。
絵が売れるのはうれしかったがちょっとさみしくもあった。
あぁ、あの絵が行っちゃうのか。。
話を聞くと彼はドクターで、最近医院を開業したのだと言う。
西洋医学の先生だが、昔から東洋と西洋の医学を融合させた医院を開くのが夢だったそうだ。
その診察室のドアの入り口に飾りたいと言ってくれた。
嬉しかった。絵も喜ぶだろう。
その人は西洋医学と東洋医学の良い所を熱心に語ってくれた。
自分でも病院を開業していたらしいのだが、
誰だかに席を譲って長年やりたかった自分流の病院を開業する決心をしたのだそうだ。
「老い先短いので心残りが無い様にやるんです」。
ニコニコして楽しそうに話す。
すごいなぁ、僕もこの人みたいに死ぬまで前を向いて生きよう。
何だか励まされた様な気分になった。
個展が終わって早速絵を届けにいった。
新しい病院は横浜の東急ハンズの並びのビルの中にあった。
先生は僕を見ると「こっちこっち」と手招きしてドアの両脇の壁を指差した。
早々に飾ってみる。やっぱりいいですね~ぴったりですよ。
とても喜んでいた。
10日程たった頃だろうか。
絵を買ってくれた先生から電話がかかって来た。
「先日買った絵をですがね、あの絵をあなたに寄贈したいんです」。
えっ??何を言っているのか分からなかった。
返品したいと言う事なのだろうか。
気に入らなかったのだろうか。
「いえいえ、絵はとても気に入っていますし患者さんからもとても評判がいいんです」。
正直ホッとした。
「実は長年お世話になっている占い師の方がいまして」。
先生が言うにはその占い師に絵を見せた所、
この絵は将来僕の美術館に展示される絵だそうで、
美術館の人気の作品になるのだそうだ。
絵も僕の所に帰りたがっているのだそうだ。
えっ?えっ??驚いたのは「美術館」という所だ。
実は僕は将来オイルパステルの小さな美術館を作る夢があった。
占い師に、
「今とは言いませんが将来この絵をここに飾れなくなったら作者に寄贈してあげなさい。絵も作者も喜びますよ」。
と言われたと言う。
何だかキツネにつままれた様な話だった。
嬉しい様な嬉しくない様な。。
お金は返さなくっちゃな。。
お金は返さなくていいんです。あなたの美術館に寄贈するんです。
電話の向こうで笑いながら手を振っているのが分かった。
美術館に寄贈って。。
何日かして寄贈されに横浜の先生の所に出向いた。
絵はまだ飾られてあった。
話を詳しく聞くと最初は何年か先、病院を閉める事になった時に寄贈しようと思ったらしい。
ところが占い師に話を聞いたせいか夢を見たと言う。
夢の中できれいな女性が「ありがとうございます」と丁寧に頭を下げたと言う。
その夢を見て絵に何かあっては大変と思いすぐに寄贈する気になったのだそうだ。
僕はうやうやしく寄贈された夫婦の絵を持ち帰った。
信じられない様な話だが本当の話だ。
その絵は今僕の手元にある。
いつか作る小さな美術館に飾るために今はアトリエの棚で眠っている。
でも美術家って。。。
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