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さて困った。

個展会場は決まったが飾る絵がない。。

個展初日まで1ヶ月しかないのに絵がないなんて。。。

僕は毎日朝方まで白いイラストボードと睨めっこ。

しかし一向に絵のアイデアが浮かんでこない。

僕は十数枚のB2の大きなイラストボードを6畳部屋にグルリと立てかけ

その真ん中に座ってただただ苦しんでいた。

1日1日時間が過ぎる度にプレッシャーが大きくなり押し潰されそうになる。

当時僕はその部屋を白い地獄部屋とよんでいた。

その時のプレッシャーは想像を絶するものだった。

人間追い詰められると精神がおかしくなってくる。

毎日ほとんど2時間ほどの睡眠だったのでその事もあったのだろう。

心臓の鼓動がおかしなリズムになったり、耳鳴りがしたり、

物の色が変わって見えたり、可笑しくもないのに笑い始めたり泣き始めたり。

それでも「人間こうやって狂っていくのね」

などとそれを不思議な気持ちで自分を観察している別の自分もいたりした。

しかし個展2週間前になると精神がピークに達したらしく、頭が真っ白になり何も考えられなくなった。

この時点で絵が一枚も出来ていないのだ。

そりゃそうなるよね。

しかし人間そこまで自分を追い詰め、発狂の手前までくると神が降りてくる。

真っ白な頭の中に子供の頃好きだった絵のイメージが浮かび、

絵のアイデアが洪水のように湧き始めた。

人生でこれほどアイデアが沸き起こった経験は後にも先にもこの時だけだ。

僕は気が狂った様になって(狂っていたのかもしれないが)、

絵を描き始めた。

描いている途中ですぐ次の絵のイメージが同時に頭に湧くので、

その絵を途中で止めて部屋の中をぐるぐる回る様にして絵を描いた。

そして15枚の絵が出来上がったのは個展前日の朝だった。

つまり搬入の日だ。

急いで額装を済ませギャラリーへ。

ギャラリーに絵を飾ってみるとそれなりに収まって良い絵に見るから不思議だ。

オープニングパーティーは会場に入りきらないほどの盛況ぶりだった。

元々数人しか呼んでいなかったので不思議だった。

後でギャラリーの方に聞いた話だと、どうも僕のことが噂になっていた様だ。

いつもは売れっ子イラストレーターや大御所、鳴り物入りの新人が展覧会を開くギャラリーに

名前も作品も誰も知らない新人が出るという事が広まっていたのだそうだ。

そのおかげで広告関係の人や雑誌社、テレビ局の人まで押し寄せた。

これだけ人が集まると仕事を出してくれる人が現れる。

ラッキーというのはこの事だろう。

雑誌や広告の仕事、テレビのバラエティー番組の背景の仕事まで舞い込んだ。

3ヶ月前までまともに絵を描いた事がなかった僕にとってこれは奇跡だった。

こうして無事イラストレーターとしてスタートを切った訳だが、

そうやらこの事がトラウマになった様で、

30年以上経った今でも展覧会の初日になって絵が出来ていない夢を見て汗をビッショリかいて飛び起きる。

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